モンキチョウ Colias erate poliographus
(シロチョウ科モンキチョウ亜科)

モンキチョウは平地から亜高山帯まで、日本各地に広く分布する普通種である。早春から晩秋にかけて、公園や堤防などの開けた環境を活発に飛び回る成虫の姿がしばしば見られるが、いざ採集しようとすると意外に素早く、子どもが持つ網ではなかなか捕らえられない。

観察を続けていると、写真のように雌雄が並んでホバリングする場面に出会うことがある。モンキチョウの♂は常に黄色で、♀には黄色型と白色型が存在するため、写真では左が♀、右が♂である。多くの蝶類と同様に、モンキチョウでも♂は♀を求めて飛び回り、発見すると一目散に追尾する。野外で見られる♀の多くはすでに交尾を済ませており、そのため♂の求愛行動は大半が失敗に終わるが、♀が即座に拒否行動を示さない場合には、このような空中での追尾がしばらく継続することがある。

このとき、雌雄の位置関係をよく観察すると興味深い点に気づく。追尾しているはずの♂が、実際には♀の前方を飛んでいるのである。これは、♂の翅表(種によって分泌器官の位置は異なる)から揮発性の化学物質が放出されており、それが性フェロモン(同種の個体間で交信を行うために用いられる化学物質)として作用し、♀にその香りを嗅がせているためと考えられている。

チョウの性フェロモンに関する研究は、ガに比べて進展が遅れており、その機能は未解明な点が多いが、どうやら♀の警戒心を和らげ、♂の求愛を受け入れやすくする役割があるとされている。

撮影データ: 2023年6月20日 鳥取県鳥取市・湖山池公園
撮影・文章: 中 秀司

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日本鱗翅学会

日本産チョウ類の衰亡と保護<第8集>

2022年12月19日公開

基本情報

書誌名:
日本産チョウ類の衰亡と保護<第8集>
著者・編者:
平井 規央・森地 重博・矢後 勝也・神保 宇嗣(日本鱗翅学会)
出版日:
2022年10月31日
出版社:
大阪公立大学出版会
総ページ数:
470
ISBN:
978-4909933416
定価:
4,400円 (税抜)

日本におけるチョウ・ガ類の生息状況や実践的な保護活動の事例、都道府県別レッドリストなどをまとめた「日本産チョウ類の衰亡と保護」第8集が刊行されましたのでご案内いたします。チョウ・ガ類の保全に関する事例研究13編と全47都道府県からのチョウ類レッドリストを掲載しております。

日本産チョウ類の衰亡と保護<第8集>

編者:
平井 規央・森地 重博・矢後 勝也・神保 宇嗣(日本鱗翅学会)
体裁:
A4判|並製本|470頁
定価:
4,400円 (本体価格4,000円+税10%)
ISBN:
978-4-909933-41-6 C3045

本書をご希望の方は、大阪公立大学出版会(OMUP)へ直接お申込みいただくか、お近くの書店へお申込みください。アマゾン、楽天ブックスなどのネット書店で注文することもできます。


日本鱗翅学会は、自然保護委員会を設置し、環境指標として有用なチョウ・ガ類の推移を見つめながら、科学的知見を蓄積した専門家集団として各種の自然保護活動に取り組んでいます。本委員会ではシンポジウムや小集会を毎年開催しているほか、日本におけるチョウ・ガ類の生息状況や実践的な保護活動の事例、都道府県別レッドリストなどをまとめた「日本産チョウ類の衰亡と保護」を発行し、日本の生物多様性保全を検討する上での重要な指針を提示してきました。シリーズ第8集となる本書は、2019年3月に開催された「第10回自然保護セミナー」の内容をもとに編集されたもので、このセミナーのサブテーマは、「チョウ類の永続的保護に向けて」というものでした。今回もチョウ・ガ類の保全に関する事例研究13編と全47都道府県からの科学的根拠に基づいたチョウ類レッドリストを集積することができました。これらのデータが各地での保全活動やレッドリストの改訂にも活かされることを期待しています。

目次

第1部 日本産チョウ類の保全と現状と展望

  • ・日本産チョウ類の現状と課題ー日本鱗翅学会自然保護委員会の活動を中心に
  • ・北海道におけるアサマシジミの保全活動
  • ・北海道アポイ岳のヒメチャマダラセセリの生息現状と保護活動
  • ・群馬県におけるミヤマシロチョウの生息数調査と保全・大阪国際空港周辺のシルビアシジミ
  • ・オオルリシジミが繋ぐ研究活動と社会貢献
  • ・京都府小塩山におけるギフチョウの保全活動
  • ・広島県のヒョウモンモドキ保護活動20年間成果と課題
  • ・絶滅危惧種カバシタムクゲエダシャクの再発見と生態解明: 本種の保全に向けて
  • ・オープンランドにおけるガ類の現状把握と今後の展望
  • ・アリがいなければチョウは守れない?
  • ・アリに寄り添う奇妙なガ類
  • ・保全のシンボルとしての「都道府県のチョウ」の選定の試み

第2部 日本鱗翅学会版都道府県別日本産チョウ類レッドリスト


問い合わせ先

〒599-8531

大阪府堺市中区学園町 1-1

大阪公立大学大学院 農学研究科
緑地環境科学専攻 環境動物昆虫学研究グループ

平井 規央

TEL:072-254-9413
FAX:072-254-9694
E-mail:hiraiomu.ac.jp

平井 規央

日本鱗翅学会

〒113-0001
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勝美印刷株式会社内 日本鱗翅学会事務局
※ お問い合わせフォームより御連絡下さい。

鱗翅(りんし)というのは鱗翅目(チョウ目)Lepidopteraのことで、鱗粉のある翅を持った昆虫すなわちチョウやガの仲間です。この小さな生き物はその素晴しい魅力で古い時代から私たちをひきつけてきました。日本鱗翅学会はこのチョウやガを研究対象とする学術団体で、アマチュアから専門家まで幅広い層のメンバーが協力しながら活動しており、興味のある人は誰でも入会できる開かれた学会です。