モンキチョウ Colias erate poliographus
(シロチョウ科モンキチョウ亜科)

モンキチョウは平地から亜高山帯まで、日本各地に広く分布する普通種である。早春から晩秋にかけて、公園や堤防などの開けた環境を活発に飛び回る成虫の姿がしばしば見られるが、いざ採集しようとすると意外に素早く、子どもが持つ網ではなかなか捕らえられない。

観察を続けていると、写真のように雌雄が並んでホバリングする場面に出会うことがある。モンキチョウの♂は常に黄色で、♀には黄色型と白色型が存在するため、写真では左が♀、右が♂である。多くの蝶類と同様に、モンキチョウでも♂は♀を求めて飛び回り、発見すると一目散に追尾する。野外で見られる♀の多くはすでに交尾を済ませており、そのため♂の求愛行動は大半が失敗に終わるが、♀が即座に拒否行動を示さない場合には、このような空中での追尾がしばらく継続することがある。

このとき、雌雄の位置関係をよく観察すると興味深い点に気づく。追尾しているはずの♂が、実際には♀の前方を飛んでいるのである。これは、♂の翅表(種によって分泌器官の位置は異なる)から揮発性の化学物質が放出されており、それが性フェロモン(同種の個体間で交信を行うために用いられる化学物質)として作用し、♀にその香りを嗅がせているためと考えられている。

チョウの性フェロモンに関する研究は、ガに比べて進展が遅れており、その機能は未解明な点が多いが、どうやら♀の警戒心を和らげ、♂の求愛を受け入れやすくする役割があるとされている。

撮影データ: 2023年6月20日 鳥取県鳥取市・湖山池公園
撮影・文章: 中 秀司

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日本鱗翅学会

保全のための放蝶に関するガイドライン

保全のための放蝶(以下、放蝶)には、「再導入」(一度絶滅した場所に放蝶する)、 「補強」(まだ生息している場所に放蝶する)、「保全的導入」(生息が確認されていない場所に放蝶する)の3タイプがあるが、いずれの場合も、次の7点の条件をすべて満たした場合には、原則として可能とする。

  • 1) 放蝶は原則認めないが、生息域内保全等、考えうる他の措置を尽くしたうえで、放蝶以外にその地域個体群を守るすべがない場合。
  • 2) 遺伝子解析等により、放蝶個体群(放蝶個体を供給する個体群)が放蝶先の個体群と同じ「保全単位」に属すとみなされる場合。
  • 3) 放蝶活動が放蝶元の個体群に対して大きなインパクトを与えないことが保障される場合。
  • 4) 放蝶行為とその後の活動が法令などに抵触せず、行政や地権者の理解と協力が得られる場合。
  • 5) 放蝶による他種への悪影響が及ばないと判断される場合。
  • 6) 既存の保全団体および事業があり、放蝶後の永続的な生息地の管理とモニタリングが担保され、その記録が公式に残せる場合。
  • 7) 放蝶計画の立案と実施等について本学会等の専門家の助言や協力が得られる場合。

※「再導入」と「保全的導入」の双方の選択肢がある場合は、実験的試行など特別な場合を除き、原則として「再導入」を優先的に考慮するべきである。

矢後 勝也 (自然保護委員長)

日本鱗翅学会

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鱗翅(りんし)というのは鱗翅目(チョウ目)Lepidopteraのことで、鱗粉のある翅を持った昆虫すなわちチョウやガの仲間です。この小さな生き物はその素晴しい魅力で古い時代から私たちをひきつけてきました。日本鱗翅学会はこのチョウやガを研究対象とする学術団体で、アマチュアから専門家まで幅広い層のメンバーが協力しながら活動しており、興味のある人は誰でも入会できる開かれた学会です。