会長就任のご挨拶

この度、2025-2027年の日本鱗翅学会会長に選出されました広渡です。会長就任にあたり、一言ご挨拶申し上げます。
私は福岡県で生まれ育ち、小学4年生くらいからチョウに興味を持ち始めました。その後、中学生になって日本鱗翅学会の存在を知り入会しました。当時はインターネットなどの情報源がなく、鱗翅類について情報を得るには、日本鱗翅学会に入会して「蝶と蛾」や「やどりが」に掲載された論文を読むのが早道だったからです。そして高校生の時に、当時日本鱗翅学会の会長をされていた白水隆先生に、ゴイシツバメシジミの標本(1973年に熊本県市房山で発見)を北九州の昆虫同好会の会合で見せていただき感動しました。また、1974年に福岡市の六本松にあった九州大学教養部で開催された年次大会に初めて参加しました。発表内容は高校生には難しかった記憶がありますが、とても刺激的でした。その影響もあって、白水隆先生がおられる九州大学を目指すことになりました。大学に入ってからチョウの分類研究に取り組みましたが、白水先生が定年退職された後は、三枝豊平先生、矢田脩先生をはじめ、上田恭一郎さん、大原賢二さん、江田信豊さんら先輩方から鱗翅類に関わるさまざまなことを学びました。中でもヒョウモンチョウ類(特にミドリヒョウモン)を解剖し、その複雑怪奇な雄交尾器を初めて見た時の驚きは今でもよく覚えています。その当時、特に参考にしていたのが、川副昭人さんと若林守男さんが執筆された保育社の「原色日本蝶類図鑑」や、福田晴夫さんらの「原色日本昆虫生態図鑑III チョウ編」でした。執筆者の方々は当時の日本鱗翅学会を支える主要なメンバーでした。
日本鱗翅学会は、創立当初から多くのアマチュアの方が支えてきました。特に新種記載、分布新記録、生活史解明など、日本産鱗翅類の多様性解明に貢献してきました。一方で、本会は世界中で衰退が問題になってきた鱗翅類の保全に取り組んできました。1989年に、柴谷篤弘先生と石井実先生らが中心となって「日本産蝶類の衰亡と保護第1集」が刊行されましたが、これは本会が鱗翅類の保全活動に力を入れるようになった転機でした。私は1988年に大阪府立大学に赴任し、その後「三草山ゼフィルスの森」でのチョウ類の保全活動にも参加しました。一方で、私の研究はシジミチョウを中心としたチョウ類からヒゲナガガなどの小蛾類の分類へと移っていきました。
この当時、緒方正美先生が本会会長をされていましたが、近畿支部には私と同世代の谷田昌也さんなどがおられ、例会では鱗翅類の保全対策が紹介される一方で、採集記のような楽しい話題もありました。最近は、例会や大会での発表が研究報告中心になっているようですが、気楽に楽しめる少し砕けた話題があってもよいのではないかと感じています。昨年の11月に日本鱗翅学会第70回大会が九州大学伊都キャンパスで開催されましたが、その時に「新発見の連続! ワクワクする鱗翅目のフィールド調査」という題目で、公開シンポジウムを企画しました。希少種の減少や外来種が与える影響など深刻な問題がある一方で、まだまだたくさんある国内外での新発見を気楽に楽しんでいただきたかったからです。
日本鱗翅学会は会員の年齢が幅広く、創立当初から同好会と学会の中間的な立ち位置だったように思います。柴谷先生もある著作の中でそのようなことを記されていますが、私はこの特色を利用して、同好会のように小中高生でも気楽に研究発表ができるとともに、それを国際的なレベルでも通用するような論文として世界に発信できるのがベストだと考えています。
これから3年間、渡邊通人前会長が推し進めてこられた若手会員の増加対策を継承し、会員の皆様がワクワクして活躍できるような場を作っていきたいと思います。