モンキチョウ Colias erate poliographus
(シロチョウ科モンキチョウ亜科)

モンキチョウは平地から亜高山帯まで、日本各地に広く分布する普通種である。早春から晩秋にかけて、公園や堤防などの開けた環境を活発に飛び回る成虫の姿がしばしば見られるが、いざ採集しようとすると意外に素早く、子どもが持つ網ではなかなか捕らえられない。

観察を続けていると、写真のように雌雄が並んでホバリングする場面に出会うことがある。モンキチョウの♂は常に黄色で、♀には黄色型と白色型が存在するため、写真では左が♀、右が♂である。多くの蝶類と同様に、モンキチョウでも♂は♀を求めて飛び回り、発見すると一目散に追尾する。野外で見られる♀の多くはすでに交尾を済ませており、そのため♂の求愛行動は大半が失敗に終わるが、♀が即座に拒否行動を示さない場合には、このような空中での追尾がしばらく継続することがある。

このとき、雌雄の位置関係をよく観察すると興味深い点に気づく。追尾しているはずの♂が、実際には♀の前方を飛んでいるのである。これは、♂の翅表(種によって分泌器官の位置は異なる)から揮発性の化学物質が放出されており、それが性フェロモン(同種の個体間で交信を行うために用いられる化学物質)として作用し、♀にその香りを嗅がせているためと考えられている。

チョウの性フェロモンに関する研究は、ガに比べて進展が遅れており、その機能は未解明な点が多いが、どうやら♀の警戒心を和らげ、♂の求愛を受け入れやすくする役割があるとされている。

撮影データ: 2023年6月20日 鳥取県鳥取市・湖山池公園
撮影・文章: 中 秀司

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日本鱗翅学会

蝶と蛾 74(4)(電子版)発行のお知らせ

2024年1月21日公開

蝶と蛾 Vol.74 No.4 (電子版)が発行されましたのでお知らせします。閲覧には以下、J-StageのURLにアクセスし、やどりが274に同封されていたログイン名とパスワードを入力してください。

ログイン名とパスワードは、2022年11月から変更となっています。ログイン名とパスワードが分からない場合は、学会事務局にお問い合わせください。


蝶と蛾 Vol. 74 No. 4

    • Microlepidoptera collected in the Hiraodai Karst Plateau, Fukuoka Prefecture, Japan.
    • Shinya SUZUKI, Sadahisa YAGI, Shunsuke TOMURA, Hazumu ARASHIMA, Jinhyeong PARK, Kimitaka SASAKI, Kiyoshiro GOTO, Toshiya HIROWATARI
    • 平尾台で得られた小蛾類
    • 鈴木 信也, 屋宜 禎央, 外村 俊輔, 荒島 彈, 朴 鎮亨, 佐々木 公隆, 後藤 聖士郎, 広渡 俊哉
    • ページ: 85-112
    • DOI: https://doi.org/10.18984/lepid.74.4_85
    • Biological notes on two species of Eudemopsis Falkovitsh, 1962 (Lepidoptera: Tortricidae), with records of parasitoid natural enemies (Hymenoptera: Bethylidae, Braconidae, and Ichneumonidae).
    • Kota SAKAGAMI, So SHIMIZU
    • Eudemopsis属(鱗翅目,ハマキガ科)2種における生態的知見および捕食寄生性天敵(ハチ目,アリガタバチ科,コマユバチ科,ヒメバチ科)の記録
    • 阪上 洸多, 清水 壮
    • ページ: 113-117
    • DOI: https://doi.org/10.18984/lepid.74.4_113
    • Distribution and host plants of Eretmocera artemisiae Li, 2019 (Lepidoptera: Scythrididae) in Japan.
    • Kiyoshiro GOTO, Yuuto IMAMURA, Sadahisa YAGI, Shunsuke TOMURA, Takuro TOKUHIRA, Kota SAKAGAMI, Bong-Kyu BYUN, Toshiya HIROWATARI
    • 日本におけるウスモンキヌバコガEretmocera artemisiae Li, 2019(鱗翅目,キヌバコガ科)の分布と寄主植物
    • 後藤 聖士郎, 今村 祐翔, 屋宜 禎央, 外村 俊輔, 徳平 拓郎, 阪上 洸多, BK Byun, 広渡 俊哉
    • ページ: 119-124
    • DOI: https://doi.org/10.18984/lepid.74.4_119
    • A review of the subfamily classification and the phylogenetic relationships among the geometrid subfamilies (Geometridae).
    • Satoshi HASHIMOTO
    • シャクガ科の亜科の分類と系統関係について
    • 橋本 里志
    • ページ: 125-143
    • DOI: https://doi.org/10.18984/lepid.74.4_125
  • A Record of Graphium doson C. & R. Felder, 1864 (Papilionidae, Graphiini) in North Osaka, Japan.
  • Kouta UJIBAYASHI, Takashi YAGI
  • ミカドアゲハ(アゲハチョウ科,アオスジアゲハ族)の大阪府北部からの記録
  • 氏林 恒太, 八木 孝司
  • ページ: 145-148
  • DOI: https://doi.org/10.18984/lepid.74.4_145

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鱗翅(りんし)というのは鱗翅目(チョウ目)Lepidopteraのことで、鱗粉のある翅を持った昆虫すなわちチョウやガの仲間です。この小さな生き物はその素晴しい魅力で古い時代から私たちをひきつけてきました。日本鱗翅学会はこのチョウやガを研究対象とする学術団体で、アマチュアから専門家まで幅広い層のメンバーが協力しながら活動しており、興味のある人は誰でも入会できる開かれた学会です。