モンキチョウ Colias erate poliographus
(シロチョウ科モンキチョウ亜科)

モンキチョウは平地から亜高山帯まで、日本各地に広く分布する普通種である。早春から晩秋にかけて、公園や堤防などの開けた環境を活発に飛び回る成虫の姿がしばしば見られるが、いざ採集しようとすると意外に素早く、子どもが持つ網ではなかなか捕らえられない。

観察を続けていると、写真のように雌雄が並んでホバリングする場面に出会うことがある。モンキチョウの♂は常に黄色で、♀には黄色型と白色型が存在するため、写真では左が♀、右が♂である。多くの蝶類と同様に、モンキチョウでも♂は♀を求めて飛び回り、発見すると一目散に追尾する。野外で見られる♀の多くはすでに交尾を済ませており、そのため♂の求愛行動は大半が失敗に終わるが、♀が即座に拒否行動を示さない場合には、このような空中での追尾がしばらく継続することがある。

このとき、雌雄の位置関係をよく観察すると興味深い点に気づく。追尾しているはずの♂が、実際には♀の前方を飛んでいるのである。これは、♂の翅表(種によって分泌器官の位置は異なる)から揮発性の化学物質が放出されており、それが性フェロモン(同種の個体間で交信を行うために用いられる化学物質)として作用し、♀にその香りを嗅がせているためと考えられている。

チョウの性フェロモンに関する研究は、ガに比べて進展が遅れており、その機能は未解明な点が多いが、どうやら♀の警戒心を和らげ、♂の求愛を受け入れやすくする役割があるとされている。

撮影データ: 2023年6月20日 鳥取県鳥取市・湖山池公園
撮影・文章: 中 秀司

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日本鱗翅学会

公開シンポジウム「インセクトワールド -多様な昆虫の世界-」

2019年6月16日公開

公開シンポジウム「インセクトワールド -多様な昆虫の世界-」の概要

プログラム

13:00 日本学術会議農学委員会応用昆虫学分科会活動報告
小野 正人 (日本学術会議連携会員・玉川大学学術研究所)
13:20 日本昆虫科学連合活動報告
伴戸 久徳 (日本昆虫科学連合代表・北海道大学大学院農学研究院)
講演 (座長) 辻 和希 (日本学術会議連携会員・琉球大学農学部亜熱帯農林環境科学科)
13:35 「非社会性昆虫コメツキモドキと菌の栽培共生」
土岐 和多瑠 (名古屋大学大学院生命農学研究科)
14:05 「ユスリカの世界」
平林 公男 (信州大学学術研究院繊維学系)
14:35 「加工食品で発育するノシメマダラメイガ」
宮ノ下 明大 (国立研究開発法人農研機構食品安全研究領域)
15:05-15:20 (休憩)
15:20 「シロアリにおけるオスのいない社会の進化」
矢代 敏久 (国立研究開発法人農研機構九州沖縄農業研究センター)
15:50 「昆虫社会の化学感覚と好き嫌い」
尾崎 まみこ (神戸大学大学院理学研究科)
16:20 総合討論 (座長) 辻 和希
16:45 閉会

伊藤 雅信 (日本昆虫科学連合事務局)

日本鱗翅学会

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鱗翅(りんし)というのは鱗翅目(チョウ目)Lepidopteraのことで、鱗粉のある翅を持った昆虫すなわちチョウやガの仲間です。この小さな生き物はその素晴しい魅力で古い時代から私たちをひきつけてきました。日本鱗翅学会はこのチョウやガを研究対象とする学術団体で、アマチュアから専門家まで幅広い層のメンバーが協力しながら活動しており、興味のある人は誰でも入会できる開かれた学会です。