モンキチョウ Colias erate poliographus
(シロチョウ科モンキチョウ亜科)

モンキチョウは平地から亜高山帯まで、日本各地に広く分布する普通種である。早春から晩秋にかけて、公園や堤防などの開けた環境を活発に飛び回る成虫の姿がしばしば見られるが、いざ採集しようとすると意外に素早く、子どもが持つ網ではなかなか捕らえられない。

観察を続けていると、写真のように雌雄が並んでホバリングする場面に出会うことがある。モンキチョウの♂は常に黄色で、♀には黄色型と白色型が存在するため、写真では左が♀、右が♂である。多くの蝶類と同様に、モンキチョウでも♂は♀を求めて飛び回り、発見すると一目散に追尾する。野外で見られる♀の多くはすでに交尾を済ませており、そのため♂の求愛行動は大半が失敗に終わるが、♀が即座に拒否行動を示さない場合には、このような空中での追尾がしばらく継続することがある。

このとき、雌雄の位置関係をよく観察すると興味深い点に気づく。追尾しているはずの♂が、実際には♀の前方を飛んでいるのである。これは、♂の翅表(種によって分泌器官の位置は異なる)から揮発性の化学物質が放出されており、それが性フェロモン(同種の個体間で交信を行うために用いられる化学物質)として作用し、♀にその香りを嗅がせているためと考えられている。

チョウの性フェロモンに関する研究は、ガに比べて進展が遅れており、その機能は未解明な点が多いが、どうやら♀の警戒心を和らげ、♂の求愛を受け入れやすくする役割があるとされている。

撮影データ: 2023年6月20日 鳥取県鳥取市・湖山池公園
撮影・文章: 中 秀司

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日本鱗翅学会

蝶と蛾 69(3/4)(電子版)発行のお知らせ

2019年1月11日公開

蝶と蛾 Vol.69 No.3/4 (電子版)が発行されましたのでお知らせします。閲覧には以下、J-StageのURLにアクセスし、Vol.68 No.3/4に同封されていたログイン名とパスワードを入力してください。

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蝶と蛾 Vol.69 No.3/4

    • Crossing experiments with Papilio okinawensis Fruhstorfer from Okinawa Island and P. dehaanii C. & R. Felder from central Honshu, Japan (Lepidoptera, Papilionidae).
    • Hikaru KITAHARA, Kazunobu SHIRAI
    • 沖縄島産オキナワカラスアゲハ(Papilio okinawensis Fruhstorfer)と本州中部産カラスアゲハ(P. dehaaniiM/i> C.&R. Felder)の交配実験
    • 北原 曜・白井 和伸
    • ページ: 85-91
    • Discovery of Blastobasis spiniella (Lepidoptera: Blastobasidae) in Japan.
    • Issei OHSHIMA, Sadahisa YAGI, David ADAMSKI
    • スピニエラネマルハキバガ(新称)(鱗翅目: キバガ上科: ネマルハキバガ科)の日本からの発見
    • 大島 一正・屋宜 禎央・David ADAMSKI
    • ページ: 93-98
    • First host record of Argyresthia assimilis Moriuti, 1977 (Lepidoptera: Yponomeutidae) and a description of its annual life history.
    • Kimiko HIRAYAMA, Mizuki SASAKI, Issei OHSHIMA
    • セジロメムシガ(スガ科)の寄主初記録と生活史
    • 平山 貴美子・佐々木 瑞季・大島 一正
    • ページ: 99-106
    • A new species of the genus Nosphistica Meyrick (Lepidoptera, Lecithoceridae) from Japan.
    • Jouhei OKU, Yositaka SAKAMAKI, Sadahisa YAGI
    • 日本産Nosphistica属の1新種(鱗翅目: ヒゲナガキバガ科)
    • 奥 尉平・坂巻 祥孝・屋宜 禎央
    • ページ: 107-112

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鱗翅(りんし)というのは鱗翅目(チョウ目)Lepidopteraのことで、鱗粉のある翅を持った昆虫すなわちチョウやガの仲間です。この小さな生き物はその素晴しい魅力で古い時代から私たちをひきつけてきました。日本鱗翅学会はこのチョウやガを研究対象とする学術団体で、アマチュアから専門家まで幅広い層のメンバーが協力しながら活動しており、興味のある人は誰でも入会できる開かれた学会です。